さる3月30日、ギャラリー<ワクナミトネリコ>で<宮沢賢治・サイエンスファンタジーの世界>と名付けた実験講座を行いました。取り上げた素材は賢治の<真空溶媒>という詩です。この詩はとっても難解です。たまたま賢治について読み始めた詩集の一番初めにあり、なにを言っているのかさっぱりわからなかったことから、格闘が始まったのですが、講座当日の3日前になって、やっと、この物語の登場人物が何人なのかが分かりました。
この物語の登場人物は3人①人の好い赤鼻の紳士、②牧師(実は賢治自身)、③悪いガスを吸って弱っていた牧師を助けるが、牧師が意識を失うと、その懐から金時計を盗む保安係(息を吹き返した牧師にそのことをなじられ、しょげて泥炭になってしまう)のようです。
そして一日前になって、場面展開がどうなっているのかが分かりました。この物語は朝の幻想というドイツ語の副題がついています。そのことで何を表現しているのか、探ろうと、ネット検索してみたところ、夢(妄想)の世界を描いているので、表現が非現実的で分かりにくいとか、雲の変化を見ながら描いているので難解なのだ・・等々いくつもの解説に出合いました。なるほどと思うものの、どれも今ひとつピンときませんでした。というか、この解釈の先があるのでは・・と思えるようになってきたのです。
更に、当日の朝、3時になって突然、一つの解釈が浮かび、目が覚めました。この詩は夢の世界を描いているようですが、実は現実、それも賢治自身の心の中を描いているのでないかというものです。物語の初めの部分から登場する赤鼻の紳士は、大きな北極犬を連れていて大切にしています。その犬が逃げ、それを追いかけてどこかへ行ってしまいます。そして物語の最後では、その大切な犬を賢治の求めに応じて、与えてくれ、賢治はその犬に乗って現実世界に戻るのです。保安係は、善人面をした悪党であることを賢治になじられてしょげ、泥炭になってしまいますが、毒ガスが雨に洗われて晴れあがった星空を、賢治と一緒に感動しながら眺めているのです。そしてその星空もすべてを吸収するブラックホールのような真空溶媒に吸い込まれていき、赤鼻の紳士が現れ、彼から大切な北極犬をもらい受けて、現実世界へ帰っていくという場面展開です。
この作品で、賢治は『誰の心にも善悪が共存している。宇宙の壮大な美しさのような崇高なものを目の当たりにすれば、そのようなちっぽけなものは消し飛び、皆心を一つにすることができる。ちっぽけなこだわりを捨てて、皆、相手のために、そしてお互い助け合って生きていこう。美しいものに心をむけよう。この世界は素晴らしいよ。』そういうことを描こうとしたのではないか?というのが浮かんだ解釈です。
この詩に描かれていることがそうだとすると、アメニモマケズ、銀河鉄道の夜などにも通じる賢治文学の普遍的なテーマなのではないでしょうか?それまでは賢治の文学の良さが分からず、楽しむこと等ほど遠い状態だったのが、突然のひらめきが感動に変わり、そこから講座に向けて実験の改良が始まり、準備がおわったのが当日午前11時でした。岩手から来られ、我が家にお泊り頂いていた高橋匡之さんが朝4時からお話に付き合ってくださり(というか無理やりつき合わされ)、実験準備のお手伝いもしてくださいました。トイレに起きられたのがウンの尽き?ですが、まったく赤鼻の紳士のような方です(ゴメンナサイ笑)。匡之さん、ありがとうございました。それらの結果、午後1時からの講座はすごく力の入ったものになりました。参加者の皆さんごめんなさい。
賢治文学を理解するには、その難解な表現の読み解きの他、随所にちりばめられ、賢治自身が感動しているサイエンスの美しさ(ファンタジーの世界)に共感することが必要です。そしてそのためには、実際にその実験を体験すること、感動することが有効(必要?)なのです。特に、この真空溶媒は、その要素が強い作品で、理解を難しくしているのではないでしょうか?しかし、今は賢治文学を代表する(といってもほとんど他の作品を知らないのですが・・・)これは素晴らしい作品なのではないかと思えるようになりました。真空溶媒の全文を添付しますので、興味のある方はご覧下さい。
この講座は月一回の連続講座で次は16日の土曜日午後一時というせわしないことになっています。次は<宮沢賢治の描く、銀と水銀、そして白金のエトセトラ>というタイトルで準備を進めています。
参加を希望される方は、私のメールアドレスshecow1@hotmail.comde またはワクナミトネリコまでお申込みください。参加費はコーヒー付きで千円、定員12名です。
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