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2016年5月 9日 (月)

宮澤賢治賢治サイエンスファンタジー第3回・光と香のサイエンス

 5月11日(水)第3回目の<宮沢賢治・サイエンスファンタジーの世界>は第1回目に扱った<真空溶媒>を素材に<賢治と光・音・香のサイエンス>をやろうと思っていました。

<真空溶媒>に出てきて、

1回目に扱えなかった苦扁桃(くへんとう(ベンズアルデヒド)や苦味丁幾(くみちんき)の香、

<チュウリップの幻術>に出てくる

「ええ、このエステルは上等です。とても合成できません。」

<銀河鉄道の夜>に出てくる

「何だか苹果の匂がする。僕いま苹果のこと考えたためだろうか。」

といった香を実際にエステルでつくってみたい。

それと光。

微粒子が光を散乱することによって起きるチンダル現象は、賢治が <告別>という詩で

・・・ そらいっぱいの  光のパイプオルガンを弾くがいい ・・・・・ 

などと表現しているのを、富山の石川幸一さんに見せて頂いた「チンダルの光のパイプの実験」などを見ながら実感できたらいいな・・と思ったのです。Thumbnail__3

当日はもう一度<真空溶媒>を神田洋子さんに読んで頂きながら、それらをたどっていく構成を考えていました。

ところがギャラリートネリコの細川伸子さんから「今、神田さんからメールで<アンネリダ・タンツェーリン>という所も真空溶媒だと。要するに真空溶媒はもっと長い詩らしいのです。それを全部読みましょうか。とおっしゃってます・・・」というメールを頂きました。 <アンネリダ・タンツェーリン>(蠕虫《ぜんちゆう》舞手)は真空溶媒に続く詩で、賢治に眺められながら小さな水たまりの中で一心に踊る蠕虫《ぜんちゆう》(これがアンネリダ、タンツェーリンは英語でいうダンサー(舞手)を描いた作品です。

(えゝ 水ゾルですよ おぼろな寒天《アガア》の液ですよ)

日は黄金《きん》の薔薇

赤いちひさな蠕虫《ぜんちゆう》が

水とひかりをからだにまとひ

ひとりでをどりをやつてゐる

(えゝ 8《エイト》 γ《ガムマア》 e《イー》 6《スイツクス》 α《アルフア》   ことにもアラベスクの飾り文字)・・・

と続く、これまた難解な詩で、以前は<真空溶媒>の一部だとは思わず、読み飛ばしていたのです。早速読み返してみたのですが、やっぱり真空溶媒とは別物に思えました。 そこで細川さんには<真空溶媒>は70もの詩で構成されている『春と修羅』の中の一つで<アンネリダ・タンツェーリン>は別の詩だと思います。・・などというメールをお送りしました。

ところが、『春と修羅』をよく見てみると、これまで読んできた<真空溶媒>にはドイツ語の<Eine Phantasie im Morgen>(朝の幻想)という副題がついており、これと<アンネリダ・タンツェーリン>がセットで、<真空溶媒>とされているようなのです。ならばこの2つにはなんらか同じ世界が描かれているはずです。

しかし、 ・・8《エイト》 γ《ガムマア》 e《イー》 6《スイツクス》 ・・

私にはなにやらさっぱり分かりませんでした。

そもそもこの二つが含まれる『春と修羅』冒頭の序文

わたくしといふ現象は

仮定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

風景やみんなといつしよに

せはしくせはしく明滅しながら

いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈の

ひとつの青い照明です ・・・・

からして意味がつかめません。それを神田さんは分かっておられるようです。

これは楽しみになりました。私が理解できていない深い世界が隠されているようなのです。 とにかく、次回は<真空溶媒>を素材に、エステルやチンダル現象を体験しながら、これらを紐解いていけば何かが見えてくる・・そう思えてきました。

そこでエステルが出てくるお話<チュウリップの幻術>をしっかり読んでみることにしたのです。 最初の一回目。これもなんだかよくわかりません。それでも2回、3回と重ねて読み、分からない言葉を調べ、そのイメージを表していそうな写真をインターネットで探し、それを詩にちりばめたりしてみました。そうしているうちに、だんだんこの詩に描かれた情景、込められたメッセージがつかめてきたのです。

この<チュウリップの幻術>には、農園で働く園丁とそこを訪れた洋傘直しの間の仕事を通じての交流が描かれています。洋傘直しの仕事は丁寧で誠実なものである事が二人のやり取り

・・・・この剪定鋏はひどく捩れておりますから鍛冶に一ぺんおかけなさらないと直りません。こちらのほうはみんな出来ます。はじめにお値段を決めておいてよろしかったらお研ぎいたしましょう。

「そうですか。どれだけですか。」

「こちらが八銭、こちらが十銭、こちらの鋏は二丁で十五銭にいたしておきましょう。」

「ようござんす。じゃ願います。」

・・・・

からも伺われます。しかも洋傘直しは、園丁が個人的に頼んだカミソリ研ぎはサービスするのです。これに応えて、園丁は自分の育てているチュウリップを披露し、2人でその世界に浸ります。 それが

「ふう、チュウリップの光の酒。

どうです。チュウリップの光の酒。ほめて下さい。」

「ええ、このエステルは上等です。とても合成できません。」・・・

なのです。 誠実な仕事をする者同士、互いに学びを交わす楽しさが描かれている気がします。

賢治はこのような交流が大好きだったようで、 『春と修羅』の中の<こっちの顔と>という詩でも

・・どっしりと座ったこういう家の中は

ただ落ちついてしんとしている

そこでこれからおれは稲の肥料をはなし

向こうは鹿踊りの式や作法をはなし

夕方吹雪が桃色にひかるまで

交換教授をやるというのは

まことに愉快なことである

などという表現で描かれています。

<アンネリダ タンツェーリン>で、

賢治に踊りを揶揄されながらも日の光をあびて、小さな水たまりという宇宙の中で、一生懸命に

・・8《エイト》 γ《ガムマア》 e《イー》 6《スイツクス》 ・・

とアラビア文字のように踊る蠕虫《ぜんちゆう》は私たち自身であるようです。

この蠕虫《ぜんちゆう》を<アンネリダ タンツェーリン>とドイツ語で表し、・・踊りを8《エイト》 γ《ガムマア》とアラビア語で表し・・という世界に浸っていると、言葉の違う国、世界がひとつにつながっているような不思議な感覚に包まれてきます。

エステルやチンダル現象というサイエンスが体感できるようになってくると、宇宙の時間的、空間的広がりの中で、皆一緒に生きているという、すーっと抜けたような広い気持ちに包まれます。

賢治が『春と修羅』の中の<雲の信号>という詩で

あゝいゝな、せいせいするな

風が吹くし

農具はぴかぴか光つてゐるし

山はぼんやり

岩頸だつて岩鐘だつて

みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ

そのとき雲の信号は・・・

と描いている感覚・・・ 時間のないころとは恐竜の時代か・・それよりもっと前・・宇宙の誕生以前、私たちも宇宙もビッグバンの前の、一つのエネルギーの塊だった時間の流れのない頃のことなのか、とにかく、自然と共にある、良いも悪いもおおらかなやすらぎの世界です。

これは

<真空溶媒>では 牧師と泥炭になった保安係が並んで心を一つに星空を眺める

<チュウリップの幻術>では

洋傘直しと園丁がチュウリップに話の花を咲かせ、空想の酒にともに酔い

<双子の星>では

チュンセとポウセ、そして星座達が助け合い、2人の奏でる星めぐりの歌で天空が回り

<アンネリダ タンツェーリン>では

揶揄される存在である蠕虫《ぜんちゆう》に結局は賢治が教えられている・・・

といった形であちこちで描かれています。

賢治の有名な言葉

・・・・・ 世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない ・・・・・

はこいうった世界を表しているのかもしれません。 こう考えると 『春と修羅』の序文

わたくしといふ現象は

仮定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

風景やみんなといつしよに

せはしくせはしく明滅しながら

いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈の ひとつの青い照明です ・・・・・・

それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

ある程度まではみんなに共通いたします

(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに  

みんなのおのおののなかのすべてですから)

や真空溶媒になぜ2つの詩が含まれるのかがイメージ出来るような気がします。

賢治の作品に描かれたサイエンスを実験の再現を通して体験していくうちに 理解できなかった、賢治の作品に描かれている場面、賢治からのメッセージ見え、聞こえるようになってくる、それは難解に思える賢治の世界に光の飛び石をこしらえていく作業にも思えます。

この手法は賢治の世界を理解するうえで、とても有効なようです。実験を通して一つずつ点る光の飛び石は、それぞれの作品を理解する礎石となり、やがて北斗七星のような星座となって、賢治の描く宇宙を構成し、その思想の中心を指し示してくれているような気がします。いつのまにか<銀河鉄道に乗って窓から見える賢治の世界に浸れている自分>がいることに驚き、感動しています。 ぜひ、皆さんもご一緒にどうぞ。

<宮澤賢治・サイエンスファンタジー第3回・光と香のサイエンス>は<チュウリップの幻術>を中心素材に、変更して進めていきたいと思います。興味のある方はぜひ、ワクナミトネリコ14:00にお越しください。

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コメント

サイエンス・ファンタジーに行きたくなりました。そのまえに宮沢賢治をまた読みたくなりました。とっても興味深い研究です。

投稿: かわさきひろし | 2016年5月10日 (火) 23時38分

川崎さん。コメントありがとうございます。賢治からのメッセージはとてもおおらかです。実験を通してそれが確かに実感できる、講座に参加されて頂いている皆さんとそれを共有出来る、ような気がします。

投稿: 管理人 | 2016年5月11日 (水) 06時54分

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