映画「銀河鉄道の父」とルビーあれこれ
先日、映画「銀河鉄道の父」を観てきました。原作を読んだ際に、賢治が童話作りに没頭していくようになった背景とその解釈に違和感を感じていたので、どのように描かれているか気になっていました。ところが映画ではその違和感が増幅されてしまいました。特に賢治が人造ルビーを作ろうとして、その費用を父親に無心するシーンで、賢治に「これは見た目は本物そっくりにみえる」と語らせているのが気にかかりました。彼には偽物で一儲けしようなどという心はないと思います。父親にあてた手紙にも「人造宝石を人造の名(模造ではない)で売るのは同義に反していないのみならず有名化学者も多く研究している」と記されていますし、『銀河鉄道の父』原作本(p224)にもそう記されています。ルビーは『銀河鉄道の夜』にも「ルビーよりも赤くすきとおり リチウムよりもうつくしく・・」とサソリの火がルビーになぞらえて描かれています。紹介済みの動画ですが、塩化リチウムの粉末を針金に付けてカセットコンロのバーナーに入れると、動画のような酔ったようなルビー色の炎が現れます。サソリの火は、サソリの想いがこもっている分、これより美しいのでしょう。詩『高架線』には「酸化礬土と酸水素焔にてつくりたる 紅きルビーのひとかけを・・」とルビー合成が登場します。写真はその酸化礬土(酸化アルミニウム)と酸水素焔(酸素水素バーナー)ともう一つの方法で高校生(金沢高校科学部員)が作ったルビーです。賢治は皆で科学を学びながら「科学の力で人間をもっと幸せにしたい」と心から願っていたのではないか、その思いがまた強くなりました。
「川の向う岸がにわかに赤くなりました。ルビーよりも赤くすきとおり リチウムよりもうつくしく 酔ったようになって その火は燃えているのでした。「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせば できるんだろう。」ジョバンニが云いました。「蝎の火だな。」 カムパネルラが又 地図と首っ引きして答えました。」『銀河鉄道の夜』
このリングバーナーを使ったサソリの火については、板谷英紀さんが「宮沢賢治と化学(p40)」に紹介されています。
酸化礬土と酸水素焔にてつくりたる
紅きルビーのひとかけを
ごく大切に手にはめて
タキスのそらのそのしたを
羊のごときやさしき眼してひとり立つひと
「高架線」
金沢高校科学部が酸化礬土(酸化アルミニウム)と酸水素焔(酸素水素バーナー)で作ったルビー(2cm)
こちらはテルミット法で作ったルビー(2mm)。酸化アルミニウムに酸化クロムを1%混ぜて、色々な方法で高温にして融かし、結晶にするのです。できたものは天然ではないものの本物のルビーです。
『宮沢賢治と天然石』北出幸男には、賢治が父親にあてた手紙にルビー合成が記されていることが紹介されています。
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